野村 胡堂
銭形平次捕物控
一
「妙なことを頼まれましたよ、親分」
ガラツ八の八五郎、明神下の平次の家へ、手で格子戸を開けて――これは滅多にないことで、大概は足で開けるのですが――ニヤリニヤリと入つて來ました。
十月の素袷、平手で水つ洟を撫で上げ乍ら、突つかけ草履、前鼻緒がゆるんで、左の親指が少し蝮にはなつて居るものゝ、十手を後ろ腰に、刷毛先が乾の方を向いて、兎にも角にも、馬鹿な威勢です。
野村 胡堂
一
「妙なことを頼まれましたよ、親分」
ガラツ八の八五郎、明神下の平次の家へ、手で格子戸を開けて――これは滅多にないことで、大概は足で開けるのですが――ニヤリニヤリと入つて來ました。
十月の素袷、平手で水つ洟を撫で上げ乍ら、突つかけ草履、前鼻緒がゆるんで、左の親指が少し蝮にはなつて居るものゝ、十手を後ろ腰に、刷毛先が乾の方を向いて、兎にも角にも、馬鹿な威勢です。