野村 胡堂
銭形平次捕物控
一
「へツへツ、親分、今晩は」
ガラツ八の八五郎、箍のはじけた桶のやうに手のつけやうの無い笑ひを湛へ乍ら、明神下の平次の家の格子を顎で――平次に言はせると――開けて入るのでした。それは兩の手で彌造を拵へて、格子をまともに開けられる筈はないからだといふのです。
五月のある日、爽やかな宵、八が來さうな晩でしたが、お仕着せの晩酌を絞つて、これから飯にしようといふ頃になつて、漸く個性的な馬鹿笑ひが、路地の闇をゆさぶるのでした。
野村 胡堂
一
「へツへツ、親分、今晩は」
ガラツ八の八五郎、箍のはじけた桶のやうに手のつけやうの無い笑ひを湛へ乍ら、明神下の平次の家の格子を顎で――平次に言はせると――開けて入るのでした。それは兩の手で彌造を拵へて、格子をまともに開けられる筈はないからだといふのです。
五月のある日、爽やかな宵、八が來さうな晩でしたが、お仕着せの晩酌を絞つて、これから飯にしようといふ頃になつて、漸く個性的な馬鹿笑ひが、路地の闇をゆさぶるのでした。