野村 胡堂

銭形平次捕物控

一

浪人大澤彦四郎は、まことに評判の良い人でした。金があつて情け深くて、人柄が穩かで、これが昔、人斬庖丁を二本、腰にブラ提げて、肩で風を切つた人とは、どうしても受取れないほどの物柔かな中老人だつたのです。

中老人と言つても、五十になるやならずで、男前も立派、武藝のほどは知りませんが、金も相當以上に持つてゐるらしく、分に過ぎた慈悲善根を施こして、その日/\を豊かに暮して居るのに、少しも困る樣子は無いばかりでなく、益々富み榮えて、『あれは金の實る木でも植ゑてゐるのだらう』と、近所の人たちから噂されたほどです。

この大澤彦四郎が、殺されかけたのですから、世の中は全く出鱈目といふ外はありません。

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