野村 胡堂
銭形平次捕物控
一
人間業では盜めさうもない物を盜んで、遲くとも三日以内には、元の持主に返すといふ不思議な盜賊が、江戸中を疾風の如く荒し廻りました。
「平次、御奉行朝倉石見守樣から嚴い御達しだ、――近頃府内を騷がす盜賊、盜んだ品を返せば罪はないやうなものではあるが、あまりと言へばお上の御威光を蔑しろにする仕打だ。明日とも言はず、からめ取つて來い――と仰しやる、何とか良い工夫はあるまいか」
南町奉行付、與力筆頭笹野新三郎、自分とは身分が違ひ乍ら、親身のやうに思つて居る捕物の名人錢形の平次に、斯う打ち明けて頼み込みました。