野村 胡堂

銭形平次捕物控

一

芝三島町の學寮の角で、土地の遊び人疾風の綱吉といふのが殺されました。櫻に早い三月の初め、死體は朝日に曝されて、道端の下水の中に轉げ込んで居たのを、町内の人達が見付けて大騷ぎになつたのでした。

傷といふのは、伊達の素袷の背後から、牛の角突きに一箇所だけ、左の肩胛骨の下のあたり、狙つたやうに心臟へかけてやられたのですから、大の男でも一たまりもなかつたでせう。刺された拍子に轉げ込んだものと見えて、下水の中は蘇芳を流したやうになつて居ります。

この邊の繩張りは、柴井町の友次郎といふ御用聞、二足の草鞋を穿いて居るといふ惡評もありますが、先づ顏の通つた四十男。早速驅け付けて、役人の檢屍の前に、一と通り、急所々々に目を通しました。

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