野村 胡堂
銭形平次捕物控
一
「親分は? お靜さん」
久し振りに來たお品は、挨拶が濟むと、斯う狹い家の中を見廻すのでした。一時は本所で鳴らした御用聞――石原の利助の一人娘で、美しさも、悧發さも申分のない女ですが、父親の利助が輕い中風で倒れてからは、多勢の子分を操縱して、見事十手捕繩を守り續け、世間からは『娘御用聞』と有難くない綽名で呼ばれてゐるお品だつたのです。
取つて二十三のお品は、物腰も思慮も、苦勞を知らないお靜よりはぐつと老けて見えますが、長い交際で、二人は友達以上の親しさでした。
野村 胡堂
一
「親分は? お靜さん」
久し振りに來たお品は、挨拶が濟むと、斯う狹い家の中を見廻すのでした。一時は本所で鳴らした御用聞――石原の利助の一人娘で、美しさも、悧發さも申分のない女ですが、父親の利助が輕い中風で倒れてからは、多勢の子分を操縱して、見事十手捕繩を守り續け、世間からは『娘御用聞』と有難くない綽名で呼ばれてゐるお品だつたのです。
取つて二十三のお品は、物腰も思慮も、苦勞を知らないお靜よりはぐつと老けて見えますが、長い交際で、二人は友達以上の親しさでした。