野村 胡堂
銭形平次捕物控
一
金座、銀座、錢座、朱座と並んで、江戸幕府の大事な機構の一つに、秤座といふのがありました。天正の頃、守隨兵三郎なる者甲府から江戸に入つて、關東八州の權衡を掌り、後徳川家康の御朱印を頂いて東日本三十三ヶ國の秤の管理專賣を一手に掌握し、西日本三十三ヶ國の秤の司なる京都の神善四郎と並んで、互に犯すことなく六十餘州の權衡を管轄しました。
萬治三年京の神善四郎、江戸の守隨家と爭つて敗れ、其權利を剥奪されて後は、江戸の秤座――通四丁目の守隨彦太郎獨り榮えて、全國の秤を掌り、富貴權勢飛ぶ鳥を落す勢ひがあつたと言はれて居ります。
その守隨彦太郎の伜――實は彦太郎の甥で、五六年前養子に迎へた兵三郎が、何者とも知れぬ不思議な曲者に、命を狙はれてゐるといふ騷ぎが起りました。