野村 胡堂

銭形平次捕物控

一

「八、居るか」

向柳原の伯母さんの二階に、獨り者の氣樂な朝寢をしてゐる八五郎は、往來から聲を掛けられて、ガバと飛起きました。

障子を細目に開けて見ると、江戸中の櫻の蕾が一夜の中に膨らんで、甍の波の上に黄金色の陽炎が立ち舞ふやうな美しい朝でした。

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