野村 胡堂
銭形平次捕物控
一
小網町二丁目の袋物問屋丸屋六兵衞は、到頭嫁のお絹を追ひ出した上、伜の染五郎を土藏の二階に閉ぢ籠めてしまひました。
理由はいろ/\ありますが、その第一番に擧げられるのは、染五郎は跡取には相違ないにしても、六兵衞の本當の子ではなく、藁の上から引取つた甥で、情愛の上にいくらか裃を着たものがあり、第二番の直接原因は、お絹の里が商賣の手違ひから去年の暮を越し兼ねて居るのを見て、ツイ父親に内證で五百兩といふ大金を染五郎の一存で融通したことなどが知れた爲だと言はれて居ります。
併し、もつと/\突込んだ本當の原因といふのは、染五郎とお絹の仲が良過ぎて、ツイ舅の六兵衞の存在を忘れ、五十になつたばかりの獨り者の六兵衞は、筋違ひの嫉妬と、無視された老人らしい忿怒のやり場に、若い二人の間を割いたとも取沙汰されました。