野村 胡堂
銭形平次捕物控
一
「錢形平次親分といふのはお前樣かね」
中年輩の駄馬に布子を着せたやうな百姓男が、平次の家の門口にノツソリと立ちました。
老けてゐるのはその澁紙色に焦けた皮膚のせゐで、實は三十五六をあまり越してゐないかもわかりません。油氣のない髮を藁しべで結つて、月代は伸び放題、從つて熊の子のやうな凄まじい髯面ですが、微笑すると眼尻に皺が寄つて、飛んだ可愛らしい人相になります。
野村 胡堂
一
「錢形平次親分といふのはお前樣かね」
中年輩の駄馬に布子を着せたやうな百姓男が、平次の家の門口にノツソリと立ちました。
老けてゐるのはその澁紙色に焦けた皮膚のせゐで、實は三十五六をあまり越してゐないかもわかりません。油氣のない髮を藁しべで結つて、月代は伸び放題、從つて熊の子のやうな凄まじい髯面ですが、微笑すると眼尻に皺が寄つて、飛んだ可愛らしい人相になります。