野村 胡堂

銭形平次捕物控

一

江戸開府以來の捕物の名人と言はれた錢形の平次は、春の陽が一杯に這ひ寄る貧しい六疊に寢そべつたまゝ、紛煙草をせゝつて遠音の鶯に耳をすまして居りました。

此上もなく天下泰平の姿ですが激しい活動のあひ間/\に、こんな閑寂な境地を樂しむのが、平次の流儀でもあつたのです。

「八、何をして居るんだ。用事があるなら大玄關から入れ」

青空文庫の作品カード