野村 胡堂
銭形平次捕物控
一
「親分、旅をしませんか、良い陽氣ですぜ」
ガラツ八の八五郎はまた斯んな途方もないことを持込んで來たのです。梅の花はもう梢に黄色くなつてゐるのに、今年の二月は妙に薄寒くて、その日も行火の欲しいやうな曇つた日でした。
「旅? 又なんか嗅ぎ出したんだらう。物見遊山には早いし、後生氣や金儲けで草鞋をはく柄ぢやなし」
野村 胡堂
一
「親分、旅をしませんか、良い陽氣ですぜ」
ガラツ八の八五郎はまた斯んな途方もないことを持込んで來たのです。梅の花はもう梢に黄色くなつてゐるのに、今年の二月は妙に薄寒くて、その日も行火の欲しいやうな曇つた日でした。
「旅? 又なんか嗅ぎ出したんだらう。物見遊山には早いし、後生氣や金儲けで草鞋をはく柄ぢやなし」