野村 胡堂
銭形平次捕物控
一
飯田町の地主、朝田屋勘兵衞が死んで間もなく、その豪勢な家が、自火を出して一ぺんに燒けてしまつたことがあります。火事は幸ひ一軒で濟みましたが、主人勘兵衞が死んだ後、思ひの外の大きい借金があつたりして、暮を越し兼ねての細工ではないかなどと、變な噂が立つたりしたものです。
「へツ、へツ、親分、變なことがありましたよ」
ガラツ八の八五郎相好を崩して飛込んで來たのは、松が取れたばかりの、薄寒く暮れた宵の口でした。
野村 胡堂
一
飯田町の地主、朝田屋勘兵衞が死んで間もなく、その豪勢な家が、自火を出して一ぺんに燒けてしまつたことがあります。火事は幸ひ一軒で濟みましたが、主人勘兵衞が死んだ後、思ひの外の大きい借金があつたりして、暮を越し兼ねての細工ではないかなどと、變な噂が立つたりしたものです。
「へツ、へツ、親分、變なことがありましたよ」
ガラツ八の八五郎相好を崩して飛込んで來たのは、松が取れたばかりの、薄寒く暮れた宵の口でした。