野村 胡堂

銭形平次捕物控

一

「親分は長い間に隨分多勢の惡者を手掛けたわけですが、その中で何んとしても勘辨ならねエといつた奴があるでせうね」

ガラツ八の八五郎は妙なことを訊ねました。

晩秋のある日、神田の裏長屋の上にも、赤蜻蛉がスイスイと飛んで、凉しい風が、素袷の襟から袖から、何んとも言へない爽快さを吹き入れます。

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