野村 胡堂

銭形平次捕物控

一

「親分、平右衞門町の忠義酒屋といふのを御存じですかえ」

「名前は聞いて居るが、店は知らないよ」

ガラツ八の八五郎は何んかまた事件を嗅ぎ出して來た樣子です。大きな小鼻をふくらませて、懷ろから出した掌で、長んがい顎を撫で廻し乍ら、斯んな調子で始めるのでした。

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