野村 胡堂

銭形平次捕物控

一

「親分、お早やうございます。――お玉ヶ池の邊に、妙な泥棒がはやるさうですね」

ガラツ八の八五郎は、朝の挨拶と一緒に、斯うニユースを持つて來るのが、長い間の習慣でした。錢形平次に取つては、まことに結構な順風耳ですが、その代りモノになるのはほんの十に一つで、あとは大抵愚にもつかぬ、市井の噂話に過ぎなかつたのです。

「妙な泥棒は苦手だよ。此間もうちの三毛猫を盜んだ野郎を縛つて拷問にかけて、猫の子を何處へやつたか白状さしてくれと、氣違ひのやうになつて飛込んで來たお神さんがあつたが、あんなのは困るよ」

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