野村 胡堂

銭形平次捕物控

一

「親分、お早やうございます」

八五郎はいつになく几帳面に格子戸を開けて入つて來ました。神田明神下の、錢形平次住居の段、――尤も、几帳面に引かないと、この格子は番ごと敷居から外れます。

借金の言ひわけと細工事が大嫌ひで、棚が落ちても釣らうとせず、半日肩で押へてゐて、八五郎が來るのを待ち兼ねない平次です。入口の格子戸の外れるくらゐのことは、三年でも我慢する氣でなければ、店賃を六つも溜められる道理はありません。

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