野村 胡堂
銭形平次捕物控
一
本郷菊坂の六軒長屋――袋路地の一番奧の左側に住んでゐる、烏婆アのお六が、その日の朝、無慘な死骸になつて發見されたのです。
見付けたのは、人もあらうに、隣に住んでゐる大工の金五郎の娘お美乃。親孝行で綺麗で、掃溜に鶴の降りたやうな清純な感じのするのが、幾日か滯つた日濟しの金――と言つても、緡に差した鳥目を二本、袂で隱してそつと裏口から覗くと、開けつ放したまゝの見通しの次の間に、人相のよくない烏婆アが、手拭で縊り殺されて、凄じくも引つくり返つて居たのです。
「あツ、大變、――誰か、來て下さい」