野村 胡堂

銭形平次捕物控

一

「親分、何んかかう胸のすくやうなことはありませんかね」

ガラツ八の八五郎は薄寒さうに彌造を構へたまゝ、膝小僧で錢形平次の家の木戸を押し開けて、狭い庭先へノソリと立つたのでした。

「胸のすく禁呪なんか知らないよ。尤も腹の減ることならうんと知つてるぜ。幸ひお天氣が良いから疊を干さうと思つてゐるんだ。氣取つてなんかゐずに、尻でも端折つて手傳つて行くがいゝ」

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