野村 胡堂
銭形平次捕物控
一
不動明王の木像が、その右手に持つた降魔の利劍で、金貸叶屋重三郎を突き殺したといふ、江戸開府以來の大騷ぎがありました。
八百八町には、その日のうちに呼び賣の瓦版が飛んで、街々の髮結床や井戸端は、その噂で持ちきつた日の夕景、――錢形平次のところに相變らずガラツ八の八五郎が、この情報を持ち込んで來たのです。
「こいつは驚くでせう。誰が何んと言つたつて、運慶とか湛慶とかの作といはれるあらたかな不動明王樣が、金貸を殺したんですぜ――錢形の平次親分が夫婦連れで來たつて外に下手人があるわけはねエ――」