野村 胡堂

銭形平次捕物控

一

「親分、ちよいと智慧を貸して下さい。大變なものが無くなりましたよ」

ガラツ八の八五郎、相變らずのあわてた調子で、錢形平次の家へ飛び込みました。

江戸の夏を飾る年中行事も一わたり濟んで、この上は抹香臭いお盆を待つばかりといふ頃。十日あまり照り續いた往來の土埃を、少々長刀になつた麻裏草履に蹴飛ばして、そのまゝ拭き込んだ上がり框に飛び上がるのですから、女房のお靜が雜巾を持つて飛んで來るのも無理のないことでした。

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