野村 胡堂
銭形平次捕物控
一
「親分、長い間お世話になりましたが――」
八五郎はいきなり妙なことを言ひ出すのです。まだ火の入らない長火鉢の前、お茶をのんで煙草をふかして、煙草を呑んでお茶を啜つて、五尺八寸の身體が、ニコチンとカフエーンで一杯になつた頃、何やら繼穗のない話を思ひ出したのでせう。
「大層改まるぢやないか、――まさか長い草鞋を履くについての挨拶ぢやあるめえな」
野村 胡堂
一
「親分、長い間お世話になりましたが――」
八五郎はいきなり妙なことを言ひ出すのです。まだ火の入らない長火鉢の前、お茶をのんで煙草をふかして、煙草を呑んでお茶を啜つて、五尺八寸の身體が、ニコチンとカフエーンで一杯になつた頃、何やら繼穗のない話を思ひ出したのでせう。
「大層改まるぢやないか、――まさか長い草鞋を履くについての挨拶ぢやあるめえな」