野村 胡堂
銭形平次捕物控
一
「親分、近頃江戸にも、變なお宗旨があるんですつてね」
ガラツ八の八五郎、何を嗅ぎ出したか、小鼻を膨らませて、庭口からノソリと入つて來ました。
五月の末のある朝、明神樣の森も申分なく繁り合つて、平次の家までが、緑の庭に淀んだやうな日和です。庭先に並べた草花の鉢の芽を、後生大事にいつくしんでゐるところへ、この足に眼のない男が木戸を跳ね飛ばすやうに闖入して來たのでした。
野村 胡堂
一
「親分、近頃江戸にも、變なお宗旨があるんですつてね」
ガラツ八の八五郎、何を嗅ぎ出したか、小鼻を膨らませて、庭口からノソリと入つて來ました。
五月の末のある朝、明神樣の森も申分なく繁り合つて、平次の家までが、緑の庭に淀んだやうな日和です。庭先に並べた草花の鉢の芽を、後生大事にいつくしんでゐるところへ、この足に眼のない男が木戸を跳ね飛ばすやうに闖入して來たのでした。