野村 胡堂
銭形平次捕物控
一
「親分、お早やうございます。今日も暑くなりさうですね」
御馴染の八五郎、神妙に格子を開けて、見透しの六疊に所在なさの煙草にしてゐる錢形平次に聲を掛けました。
「大層丁寧な口をきくぢやないか。さう改まつて物を申されると、借金取りが來たやうで氣味がよくねえ。矢つ張り八五郎は格子を蹴飛ばして大變をけし込むか、庭木戸の上へ長んがい顎を載つけなくちや、恰好が付かないね」
野村 胡堂
一
「親分、お早やうございます。今日も暑くなりさうですね」
御馴染の八五郎、神妙に格子を開けて、見透しの六疊に所在なさの煙草にしてゐる錢形平次に聲を掛けました。
「大層丁寧な口をきくぢやないか。さう改まつて物を申されると、借金取りが來たやうで氣味がよくねえ。矢つ張り八五郎は格子を蹴飛ばして大變をけし込むか、庭木戸の上へ長んがい顎を載つけなくちや、恰好が付かないね」