正木 不如丘
釣十二ヶ月
一月
二日早起諏訪湖畔から小淵沢迄汽車、富士見駅から超大型のリユツク・サツクを背負つて、名取運転手乗り込む。去年正月伴れて行つた小使君は、御勘弁願ひますと逃げてしまつた。穴釣りの面白さは分つても、寒さには降参したらしい。名取のリユツク・サツクには、炭二貫目、石油缶を二つぎりにした火鉢二ツ、それに餅一臼は入つて居るだらう。
小淵沢でしばらく待つと東京からの夜行がつく。毎年二三人の同好の士が来る。小海線へ乗り換へて、急傾斜の上りになる。小泉、大泉と海抜と共にすばらしい景色になる。
車中の客皆立ち上つて窓外を見る。東南の方大富士がスラツと立つて裾を曳く、その右に目近く南アルプス連峯、甲府盆地は朝靄の糢糊として人生生活はまだ見えない。