喜田 貞吉

融和問題に関する歴史的考察

この小冊子は昨年「融和促進」を発行しました際の予約に基づいて、もっぱらいわゆる特殊部落の由来変遷を述べたものであります。今もなお往々にして存する差別観念は、まったく因習から導かれた感情の結果でありまして、もはや議論の余地はありません。したがって議論ではなるほどと承認して、表面差別待遇をしなくなりましても、因習の根本たる歴史が明らかになっていなかったならば、いわゆる感情が承知しないで、なお水と油とを合わせたように、心から、底から、打ち解けて、融和することの困難な場合がないともいわれません。読者願わくば前回発行の『融和促進』とこの小冊子とを併せ読まれて、過去における差別の因って来たったところ、その間違いであったことの事情を明らかにし、すみやかにその非を改めて、ともどもに真の融和に向かって進みたいものであります。昭和二年一月十五日喜田貞吉識[#改ページ]

1 はしがき

私はさきに『融和促進』という小冊子を書きまして、その中に多少歴史に関する事柄をも述べておきました。しかしもともとかの書は、いかにして融和を促進すべきかということを主に述べたものでありましたから、自然歴史上の説明には、あまり深く立ち入ることができませんでした。そこで歴史のことについては、他日別にやや精しいものを発表することを予約しておきましたが、今やその予約を果たそうと思うのであります。

いわゆる特殊部落の歴史につきましては、先年、中央社会事業協会地方改善部の依頼によって、広島で講演しました筆記を整理しまして、「歴史上より見たる差別撤廃問題」という表題で、同会から発表したことがありました。しかしそれは少し精しすぎ、またむ

青空文庫の作品カード