北大路 魯山人
茶碗蒸し
茶碗蒸しのことは、みなさんよくご存じのことでしょう。ところが、これにもいろいろとコツがある。東京のは概して卵が多く、かたまりが強すぎて面白くない。一体に茶碗蒸しの卵のかたまったのは上等とは思えない。これをもって茶碗蒸しを語るものではない。それよりも関西の、ことに京都などの安物の茶碗蒸しのほうが、よい料理屋で卵を多く使って吟味したのより、料理になっている。この安い茶碗蒸しが美味いと言うのは、卵を経済的に使っているからである。
私がある時京都で、ある人の宴会に招かれたことがあった。確か祇園だったと思う。その時、ふとしたはずみで、茶碗蒸しを食ってみたくなったので、かたわらにいた芸妓に言いつけた。すると、その芸妓が女中に頼むのに、
「卵をこうしてや、うすいのはいやエ」
と申すのであった。これは気の張った客であるから、いわゆる、京都風に卵をケチにしてはいけないというわけである。