北大路 魯山人
蝦蟇を食べた話
山椒魚は手に入れるのが困難だが、反対にいくらでも手に入るもので、しかも、滅多に人の食わないもの、それでいて、相当の珍味を有するものと言えば、日本の蝦蟇だろう。
ひと頃、食用蛙というものが流行して、非常に美味いもののように言われたが、食用蛙などよりは蝦蟇の方が、よほど美味い。しかし、このことを知っている者は、案外少ないようである。
私がはじめて蝦蟇を食ったのは上海であった。ある料理屋に入ってみると、蛙の料理が特別に大きく書いて貼り出してあった。大田鶏と大書して貼り出してあったところをみると、中国でも蛙の料理は珍しい料理か、少なくとも呼びもの料理であったに違いない。さすが中国だけに面白い字を使う。田の中の鶏とはうまい表現である。
これは珍しいと思ったので、早速注文した。すると大丼に一杯持って来た。煮たもので薄葛がとろりとかけてあった。一体中国料理というやつは、いずれも大袈裟で量の多いものであるが、このときも御多分に洩れなかった。いくら美味くても、こんなには食えまいと思ったが、いざ食ってみると、非常に美味いので、とうとうみな平げてしまった。