北大路 魯山人
牧渓の書の妙諦
これは有名な大徳寺蔵の牧渓「竜虎」の双幅に見られるその題語款識である(但し「蜀僧法常識製」の分は「観音」の三幅対のもの)。
牧渓という人は、いわゆる大器大用の作家であった。決して小手の利いた人ではなかった。たくさん輸入された牧渓の画のうちで、大徳寺のこの双幅と、同じく「観音に鶴と猿」の図三幅対は、もっとも、その代表的な大作であるということであるが、偶然かどうか、この両作にかぎって、また、こんなにまでよく牧渓の全風格を丸出しにした字の書きぶりの妙味さが見られるのは至極妙である。
牧渓という人が大器であったればこそ、この字に見るがごとく、かくまでに不器用であったといえよう。さればこそ、その一字一字が実にもってまずいのである。もし牧渓にして器用であったならば、もっとその字が中国一流にまとまっていなければならなかった。
われわれがもし彼に学び、かつ悟らんとならば、この一事のみを考えることだけでも充分である。