山本 宣治
猿の演説
――昭和四年三月五日、政獲労農同盟の市会議員候補者中村高一氏の応援演説、同時に最後の演説となったもの。
諸君は数日前に大阪朝日新聞の夕刊にのせてあった一つのたとえ話をおぼえているか。忘れた人又はよまなかった人の為に、そのあらましを繰返してみよう。
一疋の猿は永年の間一本の柱を中心に、少しばかりのびた鎖につながれて、僅かばかりの餌を飼主から投げ与えられて、露命をつないでいた。
彼の世界はその柱を中心として鎖の長さ幾尺かを半径とした小さい円である。鎖はカンになって中心の柱にゆるくはめられてあるから、その猿は時々そのカンを引きずり上げて、柱の中途の函にもぐって頭を出しいれしてみたり、最高点までよじのぼって外の広い世界を見渡してみたりした。或いは時に不機嫌になって柱を抱えて叫びながら、その柱をゆり動かして見た。しかし何としても、彼の鎖は猿の力では断ちきれない。又所詮彼の世界はその半径何尺かの円をでなかった。