室生 犀星
お小姓児太郎
一
髪結弥吉は、朝のうちのお呼びで、明るい下り屋敷の詰所で、稚児小姓児太郎の朝髪のみだれを撫でつけていた。快よい髪弄りで睡不足の疲れが出て、うとうとと折柄膝がしらを暖める日ざしに誘われながら、い睡りをつづけていた。
頸すじが女のように白くたわわになり、梳き手の揺れをつたえるごとに、弥吉の手ごたえを重くした。弥吉は、飽かずそれを眺めていたが、いかにも疲れ込んでいるらしい児太郎の様子が、それとなくお宿直の、さまざまな取沙汰を思い出させた上、このように正体もなく居睡りをつづけていることが、軽い憎しみをさえ感じ出させた。生白い手をきちんと膝の上にかさね、それすら、ぐったりと、累ね手の重みで感覚もないように見えた。お弓蔵近くの桜が白く晒されはじめ、詰所詰所では、うす睡い碁将棋の音も途絶えていた。
――或る日、ちょうど弥吉が奉公してから一と月ほどあと、児太郎は、自分の部屋へ弥吉を呼んだ。