西尾 正
墓場
終戦後の今日、思い出されるのは、わが友アレックス・ペンダア君のことである。
ペンダア君は今度の欧洲戦争であわてて帰国したイギリス人の一人である。白髪あからがおの、一見初老の紳士で、仕事はなにもしていないらしく、毎日海岸を小犬をつれて散歩していた。その頃はちょうど日華事変の最中でもあるし、スパイではないかとか、亡命中の悪漢ではないかとか、いろいろ憶測をめぐらすものもあったけれど、古ぼけたハンチングにつぎのあたったスウエタア、穴のあいた白ズックの短靴など、外国人にしては、服装も至極貧相であった。日本へ来た動機などをたずねると、
「問われるを欲しない理由で」
こういってあとはボカしてしまうのである。