正宗 白鳥
玉の輿
時節外れの寒い風が吹いた。五人もの子供を抱へてゐながらビクともしない働きものゝおたまは、薄明りが差すと、誰れもまだ起きない前に寢床を離れて、手早く衣服を着替へて、藁草履を突掛けて、裏木戸から水汲みに出掛けた。風呂桶へ四五荷も汲んで、使ひ水をも大きな水瓶に滿すと、肥つた身體にべつたり汗の出るほどに温かくなつた。
共同井戸の側には、次第に人が集つた。
「かう出し拔け寒くなつちややり切れないよ。」
「冬の仕度はなんにも出來てやしないのに、弱つちまふよ。……おたまさんなぞ、手まはしがいゝから、慌てることはないだらうけれど、こちとらは、これから足掻き廻るだけよ。」