立原 道造

白紙

突然が僕を驚かす。僕はそのとき、發見したのだ。ひとりの少女は、埃りにまざつて電車にのつてゐた。朝の空氣が僕たちの間を流れる。僕たちは、眼と眼で、そつとうなづきあふ。ちようど知らない人間同士がするやうに。それから、僕は、何でもない數字を計算する。しかし、僕は自分の苦痛からはみ出さうとするこのたくらみに失敗する。すると僕は、動けなくなる。ぼんやり窓のところを見つめるきりだ。町が、走り去つて行く窓のところを。

それが、はじめて出會つたその少女だつた。……

だん/\上手になつて行く想像、僕の傍でうつとり息をしてゐる、羚羊のやうなやはらかい瞳。遠近のある少女の身體。しかし、それは少しも彼女に似なくなる。僕は、四分の一の大きさの彼女をしか知らない。やがて僕は、海の底にゐるメクラの魚のやうに苦しくなり出す。

これが、僕の愛情のきざしだつた。

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