徳田 秋声
ある夜
彼は此頃だらけ切つた恋愛に引摺られてゐることが、ひどく憂鬱になつて来た。その日も彼女は娘をあづけてある舞踊家のF――女史のところへ、二三日うちにあるお浚ひのことで行くと言つて家を出かけるとき、
「帰りに武蔵野館に好い写真がかゝつてゐるといふから、ちよつと見て来ようと思ふの。先生もお差閊なかつたら、入らつしやいませんこと?」と彼を誘つた。
彼は以前は余り見なかつた活動を、彼女がゐるために時々見る機会があつたが、大抵は彼女が見て来て筋を話すくらゐの程度であつた。
「さうね、好いものなら。」