徳田 秋声

二つの失敗

空の青々と晴れた、或る水曜日、青木は山の手の支那料理採蘭亭で、或るダンサアと昼飯を食べる約束があつたので、時刻を計つてタキシイで出かけた。町は到る処野球試合の放送で賑はつてゐた。素から知らない顔でもなかつた採蘭亭のマダムを、或晩或ダンスホールでそこのダンサアに更めて紹介されてから、紹介したそのダンサア達と一緒にそこで会食したのは、最近のことであつた。採蘭亭は崩壊した或る有名な実業家の豪奢な屋敷跡であつた。電車通りから少し入ると、埃がもや/\見えるやうな慵い暮春の街筋に黄色い壁が直ぐ目にいた。

見知りの女中の顔が玄関に見えた。

「お一人でいらつしやいますか。」

「いや、女の人が後から一人……。」

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