徳田 秋声

微笑の渦

(一)

 K氏を介しての、R大使館からの招待日だつたので、その日彼は袴などつけて、時刻がまだ早かつたところから、I子の下宿へ寄つて一と話してから出かけた。

R大使館の所在を、彼は明白には知らなかつた。勿論招待の意味についても、明確なことはわからなかつた。しかし大凡その見当はわかつてゐた。気のきいた運転士が車をつけたところが、果してそれであつた、彼は門前で車をおりて、右側の坂道を爪先上りに登つて行つた。左へ折れたところに応接室か喫煙室かといふやうな部屋の窓の戸が少しあいてゐて人影が差してゐたが、そこを過ぎると玄関があつた。

名刺を通じてゐるところへ、大入道のA氏が奥から出て来て、彼を迎へてくれた。A氏は一度R国へ行く友人の送別会席上で見知りになつたR国人であつたので、私はいさゝか心強く感じて、導かるゝまゝに奥へ通つた。卓子掛や椅子の緋色づくめな部屋には数人のR国の男女がゐて、私の仲間は案外にも極めて小数であつた。その多くは夫人帯同であつたことも、私には意外であつた。

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