室生 犀星

命

お咲は庖丁をとぎ、淺吉は屋根の上をつたひながら※(「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2-13-28)し茅を施してゐる。

一萬戸ある金岩の町は、火見櫓をまんなかに抱いて、吼える日本海のぎりぎりまで町裾を捌いてゐる。春寒い曇天はきたない瓶の色をして、硬くるしい息窒るいやな景色である。町はづれの松林のなかの一軒家、

淺吉は噴井戸にゐるお咲の背中を見ながらいつた。

「お咲さ。」

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