室生 犀星

汽車で逢つた女

二丁目六十九番地といふのは、二軒の家を三軒にわけたやうな、入口にすぐ階段があつて、二階が上り口の四疊半から見上げられる位置にあつた。打木田が突立つて、戸越まさ子といふんですがと女の名前をいふと、二階の障子がものしづかに開いて、女の顏が顎から先きに見え、紛ふ方もない汽車で逢つたまさ子であつた。

打木田は、やあ僕やつて來ましたよ、と笑ひ顏を向けると、女は、あら、ほんとによく來てくだすつたわね、といひ、お内儀らしい中年女にお客樣だわ、お上げしていいでせうといつた。いいとも、皆に降りて貰へばよいと機嫌好くさばいて、あんたおあがんなすつて、と階段を眼先であんないして、いつた。それと同時に、女の出て來た部屋から三人の女が、一どきに階段を降りて來た。いらつしやいましと口々にいふと、次の間にこぼれ込んで行つた。どの女もわかくてでぶで、氣立の好い笑顏を見せてくれたので、打木田は好意のあるぺこぺこしたお辭儀をつづけた。

「よく來てくだすつたわね、あれつきりかとも思つてゐたのよ。」

「此處らの番地はみな同じだね、さんざ搜して歩いたんです。」

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