ボードレール シャルル・ピエール

午前一時に

やつと独りになれた! 聞えるものはのろくさい疲れきつた辻馬車の響ばかり。暫くは静寂が得られるのだ、安息とは行かないまでも。暴虐をほしいまゝにした人間の顔もたうたう消え失せた、俺を悩ますものはもう俺自身ばかりだ。

やつと俺にも闇に浸つて疲を休めることが許されたのだ! まづ、扉の鍵を二度まはす。かうして鍵をまはすと、俺の孤独が増すやうだ。現在この世から俺を隔てゝゐる城壁が固くなるやうだ。

怖ろしい生活だ! 怖ろしい都会だ! 今日一日にしたことを数へ上げてみようか。五六人の文士に会つた。その一人は俺に陸路を通つてロシアへ行けるだらうかと訊くんだ(あの男はきつとロシアを島だと思つてゐたにちがひない)。或る新聞の主筆を手ひどくやつつけた。あいつはいひわけをするたんびに一々「何しろこゝは立派な人たちがやつてゐるのですから」と言つたつけ。ほかの新聞はみんなならずものがやつてゐるといふつもりなのだ。二十人ばかりの人にお辞儀をした。そのうち十五人は知らない人だ。同じくらゐの割合で万遍なく握手をした。それも、手袋を買ふときほども身を入れないで。驟雨のあひだ隙つぶしに踊り子のところに上りこんでゐたら、※(濁点付き片仮名ヱ、1-7-84)ニユストルの衣裳図案を描いてくれと頼まれた。劇場の支配人のところへ敬意を表しに行つたら、俺に暇を出すと言ひ渡してこんなことを言つた、「Zのところへ行つてみたらいゝでせう。あの男はこゝの作者のなかでも一ばんぐづで、一ばん馬鹿で、一ばん評判がいゝんだから、あすこへ行つたら何とかなるでせう。まあ行つてごらんなさい、そしてまた会ひませう。」俺はしたこともない汚行を自慢して話し

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