富永 太郎

美しき敵

私はその頃不眠症に悩んで居た。

かなり多くの人々が私の病気を知つてしまつて、それに対する忠告を与へてくれる人も少くなかつた。

気軽な或る大学生は言つた。「運動が足りないんだね。君みたいに一日中室の中に居て煙草を吸つてる男に安眠の出来るわけはないさ。ちつと学校のコートへやつて来たまへ。昼休みにお対手しよう。」

肥満した或る若い会社員は言つた。「君、誰か見付けて早速結婚したまへ。すぐ癒るよ。君みたいな男がその齢になるまで独身で居るなんてわるいことだ。」

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