野村 胡堂

銭形平次捕物控

一

伽羅大盡磯屋貫兵衞の凉み船は、隅田川を漕ぎ上つて、白鬚の少し上、川幅の廣いところを選つて、中流に碇をおろしました。わざと氣取つた小型の屋形船の中は、念入りに酒が廻つて、この時もうハチ切れさうな騷ぎです。

「さア、皆んな見てくれ、こいつは七平の一世一代だ――おりん姐さん、鳴物を頼むぜ」

笑ひ上戸の七平は、尻を端折ると、手拭をすつとこ冠りに四十男の恥も外聞もなく踊り狂ふのでした。

青空文庫の作品カード