野村 胡堂

銭形平次捕物控

一

「親分、聽いたでせう?」

ガラツ八の八五郎は、鐵砲玉のやうに飛び込んで來ると、格子戸と鉢合せをして、二つ三つキリキリ舞ひをして、バアと狹い土間へ長んがい顎を突き出すのです。

「聽いたよ。今鳴つたのは、上野の辰刻(八時)だ。どんなに腹が減つてゐても、まだ晝飯は早え」

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