野村 胡堂

銭形平次捕物控

一

深川熊井町の廻船問屋板倉屋萬兵衞、土藏の修覆が出來上がつたお祝ひ心に、出入りの棟梁佐太郎を呼んで、薄寒い後の月を眺めながら、大川を見晴らした、二階座敷で呑んでをりました。

酌は醗酵し過ぎたやうな大年増、萬兵衞の妾でお常といふ、昔は隨分美しくもあつたでせうが、朝寢と美食と、不精と無神經のために、見事に脂肪が蓄積して、身體中のあらゆる關節に笑靨の寄るといつた、大變な大年増でした。

「あれまア、月が」

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