野村 胡堂

銭形平次捕物控

一

「へツ、へツ、へツ、親分」

ある朝、八五郎が箍の外れた桶見たいに、笑ひながら飛び込んで來ました。九月もやがて晦日近く、菊に、紅葉に、江戸はまことに良い陽氣です。

「挨拶も拔きに、人の家へ笑ひ込む奴もねえものだ。少しは頬桁の紐を引締めろよ、馬鹿々々しい」

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