野村 胡堂

銭形平次捕物控

一

八五郎は斯う言つた具合に、江戸の町々から、あらゆる噂話を掻き集めるのでした。その噂のうちには、極めて稀に、面白い局面を展開するものがあり、中にはまた驚天動地的な大椿事の端緒になるのもないではありませんが、十中八九は、――いや九十何パーセントまでは、愚にもつかぬ市井の雜事で、不精者の錢形平次が、腰を上げるほどの事件は、滅多にはなかつたのです。

この話も、最初は隨分馬鹿々々しいものでした。子供の惡戲か、町内の若い衆のからかひか、どうせたいしたことではあるまいと多寡をくゝつてゐると、それが思ひも寄らぬ事件に發展して、正月半ばを過ぎたばかりの、屠蘇の醉もさめやらぬ平次に、飛んだ一と汗をかゝせることになつたのです。

「馬鹿々々しいぢやありませんか、親分」

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