野村 胡堂
銭形平次捕物控
一
運座の歸り、吾妻屋永左衞門は、お弓町の淋しい通りを本郷三丁目の自分の家へ急いでをりました。
八朔の宵から豪雨になつて亥刻(十時)近い頃は漸くこやみになりましたが、店から屆けてくれた呉絽の雨合羽は内側に汗をかいて着重りのするやうな鬱陶しさ――。
永左衞門は運座で三才に拔けた自分の句を反芻しながら、それでも緩々たる氣持で足を運んでをりました。
野村 胡堂
一
運座の歸り、吾妻屋永左衞門は、お弓町の淋しい通りを本郷三丁目の自分の家へ急いでをりました。
八朔の宵から豪雨になつて亥刻(十時)近い頃は漸くこやみになりましたが、店から屆けてくれた呉絽の雨合羽は内側に汗をかいて着重りのするやうな鬱陶しさ――。
永左衞門は運座で三才に拔けた自分の句を反芻しながら、それでも緩々たる氣持で足を運んでをりました。