中原 中也

詩と詩人

一

詩といふものが、人生を打算して生きてゐる根性からは、決して生れるものではない! 一見、その根性は人をして屡々知慧ある態度を採らせるやうに見える。けれど知慧とはそんなものではない! 若しそれが知慧だとしたら、知慧とは千偏一律のもので、千偏一律な知慧なぞといふものが、考へられるか?

私もストイシズムの可なり立派な論拠を知らないものでもない。しかし遂に、ストイシズムは詩を生まない! 第一人間を偽善にする。注意せよ、世には甚だ見分け難い偽善がある!

芸術に始源がありとして、それは何だか知つてゐるか?――「叫びたい」ことだ! 而も所謂喜怒哀楽――即ち損得に因つて起る喜びと悲み――を叫びたかつたのではなく、かの生の歓喜だ! 即ち生が自然に溶解する時の寧ろ悲痛な声だ! それは抽象的でも具体的でもない、又あらゆる習慣、あらゆる思索の便宜に作られた言葉、あらゆる名辞以前にあるものだ。定型がない。一つの向勢があるばかりのものだ。そして向勢は諸物の形象を時間的に聚集する。それはまた必然の律動を呈す。――それが詩だ。

青空文庫の作品カード