中原 中也

文学に関係のない文学者

陽気な文学をといふ声がするが、では陽気とはいつたいどんなことなのだらう。誰しも陰気よりは陽気の方が凡そ好きなのに相違はないのに、「陽気な文学を」といふのが一つの文学上の提案となるためには少しくましな何事かであらねばならぬ。

ところでさういふ声をよく聴き分けてみると、何事でもない場合が大部分である。

今仮りに某が、興味を以て是々の文学書を読んだり、是々の作品を物したりして暮してゐるとして、其処へもつてきて「陽気な文学を」、なんて声がして来たらどんなものだらう。ともかく一応は「へえ?」と思ふに相違あるまい。扨その声をよく聴いてみる。と、何も文学の事を云ひはしないで、たゞ「陽気に」と云つてゐる。

と、さうなれば問題は簡単だ。文学といふ対象を持たない男が、なんとなく何事も陽気であらせたいと思つたので、そして偶々彼が文壇にてづるを持つてゐたので、『「文学を」陽気に』と云つたまでなのだ。もつと悪い場合を想像すれば、文学の雑文を書かうとして、何の文学に関するネタもない所から、どうも鬱々として、その揚句、「一体全体文学が陰気だぞ!」とばかり、昂奮してみせただけなのだ。

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