中原 中也
青年青木三造
一 三造の心事――三造の友人達に。
三造は、この世に自分くらゐ切ないがまた、呑気といへば呑気な男はないと思つてゐた。事実彼は呑気であつた。
或時三造の一寸知つた男が彼に言つた。「無念さうな顔をしてかァ」。実際さういはれてみれば自分は無念さうな顔をしてゐたもんだと三造は思つた。「でも、自分の心の中は、無念さうなのではないのだがなあ。しかし……」。三造はドギマギした。それからまた放心したやうな眼をした。だが何か、言ふべきことがあるやうな気がした。尠くとも考ふべきことがあると思つた。しかし、それは、吁、何時ものやうにまた、結論には到達せずに終るであらう――といふことが一種の幻想のやうに彼の眼前を掠めた。
しかし、彼は、かなしかつた……かなしかつた。そして、かなしいといふことは、語る権利があるといふことのやうに吾人にはともかく思はれる。